稲穂が黄金色に染まり、少しずつ秋の気配を感じ始めたこの日、9月16日から9月30日の期間に栃木県益子町で開催される「土祭」(ひじさい)へ行ってきました。
新月から満月までの期間という何ともロマンチックな会期で行われるこのお祭りは、2009年より始まりましたが、昨年は東日本大震災で益子町も被災したため鎮魂と再生への祈りを込めて、ちょうど半年後の9月11日に1日限定で「前土祭」が開かれました。
昨年5月に開催された陶器市に訪れた際に見た益子は、まだ多くの家の屋根がブルーシートを被り、益子の象徴である登り釜は崩れ落ち、陶芸家の多くは作品づくりができる状態ではないと語っていました。
あれから1年4カ月ほど経った今、ブルーシートは随分減り、未だに震災の爪痕は所々に残ってはおりますが、街に活気があり、多くの陶芸作品が並び、少しずつ復興しているように見えました。
土祭は、益子町を3つのエリアに区切り、個々のテーマを基に歴史ある日本家屋を使用してアート作品展示を行ったり、料理を提供したりしています。
まずは、築100年は超えるという民家で、信用組合や造園会社の事務所として使われた後、長い間、空き家となっていた「ヒジノワ」へ。
ここは2009年の土祭で現代アートの作家4名の展示会場として使うことになり、町職員やボランティアスタッフによるプロジェクトチームでリノベーションされました。
2009年の土祭後、改修チーム有志が中心となり、地域コミュニティ「ヒジノワ」を立ち上げ、日替わり店主のカフェとギャラリーとして活用し、今は益子の顔とも言える存在になっています。
その「ヒジノワ」内の受付で共通パスポートを購入(当日700円)し、各展示施設でのスタンプラリーを楽しめます。
また、読み応えのあるオフィシャルガイドブック(全80P)もいただけるので、どのような作品があるのか、作品の説明や想いなども分かりやすく偶然立ち寄った方々も参加しやすい環境作りが伝わってきました。
今回様々な作品を見て回り、私たちが強く感じたのは『土』の存在。
陶器市に訪れた時は、すでに完成した作品を目にしました。
もちろんそういった作品が土から作られているのは知ってはいますが、完成されたものから自然の土を想像するのは難しく、
今回の展示は原点を知り、より益子焼きへの知識を深めることができるようになっています。
また、作品の多くに益子が受けた東日本大震災の影響を感じ取ることができました。
震災で割れた陶器にメッセージを記し、一つのアートとして生まれ変わっていたり、崩れかけた家屋や倉庫をそのままの状態で作品として仕上げ、決して忘れてはいけない出来事だけれど、前進していこうとしている意志がそこにはありました。
真岡鐵道の益子駅から益子本通りを抜けて、メインストリートとなる城内坂の交差点まで歩く最中、5分おきに訪れるお天気雨に打たれて、雨宿りとギャラリー探索を繰り返しながら日下田藍染工房へ。
ここでは川村忠晴による「灯りのインスタレーション」が展示され、実際の藍染め作業も見ることができます。
趣のある中庭に、差し込む雨上がりの日差しが心地よくて、頬をしたたる汗がキラキラと輝きます。
土祭のガイドブックを片手に街中をめぐり歩いていると、通常営業している陶器屋さんで多くの器に出逢うことができます。
窯元の直営店も多くあり、素敵な益子焼きの器がお手頃価格で手に入るので、時折掘り出し物を見つけにお店に立ち寄るのも益子ならではの楽しみ。
お店の方々と話しをしながら、益子の情報などを得るのもいいですね。
各展示には益子町の方々がボランティアで受付をしています。
その方々がオススメしてくれた「starnet」にて、もう陽も傾き始めたからなのか、今日はいつもり比較的カフェスペースが空いていたので、
地場野菜たっぷりのご飯プレートをいただきました。
野菜そのものの味を十分に引き出した味付けで、とても美味しくてペロリ。
そろそろ時間も17時、土祭のほとんどの展示は終了して中心街から人々は姿を消し、みな同じ方向へ歩いていました。
夜になると土祭広場で「夕焼けバー」がオープンし、杉材で作った屋台に、高校生が烏山和紙で作成した提灯により暖かい明かりが灯り、益子で普段飲食業を営む方々が屋台に店を出し、土祭の成功を労うかのような和太鼓の演奏が盛大に行われ、暗くなりだした静かな益子の夜に人々の笑い声と和太鼓の音が遠く響いていました。
9月いっぱい開催している土祭。
東京からも車で2時間ほどの距離なので、土祭を楽しみながら、益子焼きに触れ、益子の雄大な自然を味わってみてはいかがでしょうか。
【旅のモノ語り:2012年9月16日】